event:左手の向こう側

キャスリン個別シナリオ
『左手の向こう側』


プロローグ(SS形式です、苦手な方はご注意下さい)
──セントラルシティ地下、居住区。
サイレンが鳴り響いていた。
鈍い、腹に響くような警報音。空気が震えて、土埃の匂いが鼻をつく。

15歳のキャスリンは必死に走っていた。
9歳の弟ニルの手を握りしめ、喉を焼くような声で叫ぶ。

「ニル! 離れんなよ! ウチが、絶対に守ったげるから……!」
「……■■!■■■■■!」

周囲はもうパニックだった。
シェルターを目指す群衆が、怒号と悲鳴を上げて殺到してくる。
肩にぶつかる大人の肘。足をすくわれ、倒れる人。
息もできないほどの熱気と圧力の中、キャスリンはよろめきながらも、左手に握った弟の手だけは離さなかった。
指先に感じる小さな手。必死に握り返してくる温もり。

「■■、■■■■■■……?」
「んなわけない……!もうちょいだよ……! ほら、ウチらもうすぐ──!」

その瞬間。
爆音が轟き、地下空間全体が揺れた。シティの正門が攻撃を受けたのだろう。
疑似天候スクリーンが明滅し、人々の恐慌は一気に爆発した。

後ろから押し寄せる群衆の奔流に、ニルの足がもつれ、膝から崩れ落ちる。キャスリンはそのまま引きずられるように前へと押し流された。
繋いだ手に痛みが走る。

「やめろ……! ニル!!離しちゃだめ……! 離しちゃ──!」

だが、人の波は無慈悲であり、少女の腕はすぐに限界を迎えた。

「■■■■■……!!」

ずるりと指先が滑った。小さな手が遠ざかる。

「────ああああ!! ニル!!」

叫びも虚しく、弟の姿は群衆に吞み込まれ、消えた。


──


冷たいものが頬を打った。
湿った気配と土の臭いが、意識の底に滲んでくる。
瞼の裏が痛み、キャスリンはわずかに目を開けた。

(……また、あの時の夢……)

7年前。弟を事故で失って以来、彼女は何度も同じ夢を見た。
夢に現れるのは、決まってあの瞬間──弟の手を必死に握りながらも、なすすべなく引きはがされた記憶。
そして最後は必ず、ニルが人波に呑まれるところで目が覚めるのだ。

「う……っ……」

呻き声を洩らし、身体を動かそうとした瞬間、異常に気付く。
背中や腰に、ごつごつとした感触が容赦なく食い込む。自室のベッドの感触ではない。
周囲を見渡すと、崖下の狭い空間に横たわっていた。
濡れた土と岩肌。見上げると、遥か頭上に崖の縁が見えた。
空からは細く冷たい雨が降り注ぎ、服はずぶ濡れになっている。

(……落ちた、のか……)

どうやらグライドする暇もなく滑落したらしい。
何時間寝ていたのだろうか。呼吸をするたびに胸が痛む。身体を起こそうと力を込めると、左足に激痛が走った。

「痛っ……!!」

思わず呻いて左足を見ると、見事に足首が腫れ上がっている。骨折は明らかだった。
両手は擦り剝け、力が入らない。自慢のネイルチップは折れ、一部は生爪までグラついていた。
さらに悪いことに、このときキャスリンはナノトランサーを所持していなかった。
身体を動かせる範囲を探ったが、通信機も携帯もビーコンも、身体の下敷きになったせいで残らず破損し、使い物にならなくなっていた。

(これって……ヤバいかも……)

崖から滑落して、足を折って、通信機も壊れて……。キャスリンの背を冷たいものが流れる。

(天罰……かな……ウチが“あんなこと”望んだから……)

キャスリンはポケットから、木製の小箱を取り出す。
奇妙な文様の彫られたそれは、奇跡的に無傷だった。

「……ニル」

小箱を胸に抱き、かすかに呟く。

「待っててね……もうすぐ……」

キャスリンは砂礫に身を預け、静かに目を閉じた。


日時:2025年9月27日(土)21:00~
開始場所:エアリオ撮影推奨002ブロック セントラルシティ 大モニター側カフェ 撮影専用ルームPASS[drp]


導入
エアリオリージョン、セントラルシティのとあるカフェテリア。
日々命がけの激務に耐えるアークス達にとって、そこは一服の清涼剤といってもよい憩いの空間。
今日もいつものように仕事終わりのアークス達が談笑を楽しんでいると、そこへ一人の女が訪ねて来る。
「──あんた達、キャスリン・ベルクの知り合い?」


注意点
・予定では全編非戦闘イベントです
・イントロダクションに参加していない方でもご参加いただけます
・初対面の方でも問題なくご参加いただけますが、可能であればキャスリンと面識のある方推奨です
・(よほどないと思いますが)円滑な進行に差し支えると判断した場合、主催が確定ロールを挟む可能性があります
・多少なりオカルト的表現がある可能性があります
・イベント内でクリエイティブスペースメニューから「設計図の検索」を行うシーンがあります。事前に操作方法の確認を推奨します


禁止事項
・大規模な異能力の行使


上記内容を予めご了承いただければ幸いです。
1話完結型のコンパクトなイベントにする予定です。
念のための禁止事項も一応ありますが、世界規模で運命を変えたり、次元跳躍したりしなければ異能力を行使しても大丈夫です。


おまけ
BGM
https://www.youtube.com/watch?v=EGa0HCHEWhI
タイミング:2回目の場面転換後
勿論ゲーム内BGMのみでも進行上の問題はありません。